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CHAPTER5 決算の業務

Section 06 実地棚卸

決算に不可欠な業務の1つが実地棚卸。手間のかかる作業なので、手順とスケジュールをよく確認しておこう。

決算にあたって商品など棚卸資産の残高を把握する

会社が販売する目的で一時的に保有している商品・製品・原材料・仕掛品などを総称して、「棚卸資産」といいます。決算にあたって当期の売上原価、売上総利益などを確定させる際、必要になるのがこの棚卸資産の残高を把握すること。そこで行われるのが、実際に倉庫などに出向いて商品などの数量を点検・計量する手続き=「実地棚卸」です。

会社によっては、実地棚卸の手順を文書化した棚卸指示書があります。実地棚卸を初めて担当する際にはまずその有無を確かめ、指示書があればその内容に沿った作業に努めなくてはいけません。また前回の実地棚卸時に記録された指摘事項なども同様に確認します。

帳簿上のデータと突き合わせて不一致がないか確認する

棚卸資産は、日頃からその出入りが帳簿上のデータで管理されているのが通常。そこで実地棚卸では期末時点での数量などがそのデータと一致するかどうかを確認します。また滞留在庫=デッドストックの有無、故障や破損していないかをチェックするなど、在庫に対する評価も行います。

実地棚卸の結果と帳簿に差異が生じた場合、決算整理仕訳で帳簿の修正を行います。差異が生じる原因は、紛失、出庫・受入ミス、棚卸のカウントミス、盗難、不正などさまざま。その分析も作業の一環として行います。

ポイント

  1. 売上原価などの確定に棚卸資産の残高確認が必要。
  2. 実地棚卸の手順を文書化した棚卸指示書の有無を確認する。
  3. 数量などのほか、故障や破損などについても評価する。

売上原価・売上総利益の算出方法

実地棚卸を行って棚卸資産の残高を確定させることで、正確な売上原価の算出が可能になる。

図「売上原価・売上総利益の算出方法」

売上総利益 = 売上高 - 売上原価

売上原価 = 期首商品棚卸高 + 期中商品仕入高 - 期末商品棚卸高

実地棚卸表

実地棚卸にあたっては、実地棚卸表に基づいて商品の品名、単価、在庫金額などをチェックしていくことで、正確かつ効率的に作業を行うことができる。

実地棚卸表

MEMO

大量の商品・製品・原材料・仕掛品などをカウントする実地棚卸は作業量が膨大となり、多くの労力を要する。そのため作業手順を事前に周知・共有しておくことも大切。

Section 06-1 棚卸資産の評価―原価法と低価法

棚卸資産の期末評価は、税法や会計基準においていくつかの方法が定められていることを知っておこう。

棚卸資産の評価方法は複数ある

棚卸資産の種類は、商品・製品・原材料・仕掛品などのほか、半製品、補助材料、消耗貯蔵品など、多岐にわたります。また外部から仕入れたもの、自社で作ったものなど入手方法も複数あります。実地棚卸では、これらの単価(仕入単価)を正確に把握しなくてはいけません。

それぞれの棚卸資産の仕入単価が会計期間を通してずっと同じであれば、期末残高の単価は容易に計算できます。しかし実際には、さまざまな事情で価格が変動することが少なくありません。そのためどの時点の価格をどのように計算するかで、期末時点での棚卸資産の価額、さらに売上原価の金額が変わってきます。

評価方法のいずれかを選んで継続適用する

棚卸資産は下記図「棚卸資産の評価方法」のように複数の評価方法があり、会社はいずれかを選んで継続的に適用していくことになります。棚卸資産の評価方法は、大きく分けて「原価法」と「低価法」の2つ。まず原価法は、棚卸資産の実際の購入価額(帳簿価額)をもとに期末の棚卸資産を評価します。もう1つの低価法は、棚卸資産の期末時点での時価と帳簿価額を比較し、低い方を評価額とする方法。棚卸資産の価値が型落ちなどで陳腐化して帳簿価額を下回った場合、帳簿価額との差額を費用として計上することができます。

ポイント

  1. 棚卸資産の仕入単価は、会計期間中に変動することが多い。
  2. どの時点の価格をどのように計算するかで、棚卸資産の額が変わる。
  3. 複数ある評価方法から、会社ごとに選んで継続適用する。

棚卸資産の評価方法

棚卸資産は、原則として以下のように総額を求める。

棚卸資産の単価 × 棚卸資産の数 = 期末棚卸資産の価額

ただし仕入の時期によって単価が変わることもある。そのため期末時点での評価方法は、以下の2通りが用いられている。

原価法

購入代価または製造原価に引取費用などの付随費用を加算した金額(取得価額)を元に評価する方法。主に次のような方法がある。

個別法 個別に実際の取得価額に基づいて計算する。
先入先出法 先に仕入れた商品から先に売れるとの仮定に基づき、直近の取得価額を評価額とする。
総平均法 期首と期中の取得価額の総額の合計額を総数量で割った単価で評価する。
移動平均法 仕入のたびにそれまでの平均価額と合わせて計算をやり直し、その都度の平均を求める。
売価還元法 期末棚卸資産の販売価額の総額に、原価率を掛けて求める。
最終仕入原価法 期末の最後に取得した価額で評価する。中小企業のみに認められている方法。
低価法

原価法のうちどれか1つの方法で評価した価額と、期末における時価を比較して、低い方の価額で評価する方法。

評価方法の変更

棚卸資産の評価方法がそのつど自由に変えられると、利益操作につながりかねない。そのため法人税施行令では、現在の評価方法を採用してから「相当期間」(法人税基本通達では3年)を経過していない場合の評価方法の変更承認申請を税務署が却下できるとしている。また3年を経過していても、変更に合理的な理由が認められない場合は却下される可能性がある。

国税庁 法人税基本通達5-2-13
一旦採用した棚卸資産の評価の方法は特別の事情がない限り継続して適用すべきものであるから、法人が現によっている評価の方法を変更するために令第30条第2項《棚卸資産の評価の方法の変更手続》の規定に基づいてその変更承認申請書を提出した場合において、その現によっている評価の方法を採用してから3年を経過していないときは、その変更が合併や分割に伴うものである等その変更することについて特別な理由があるときを除き、同条第3項の相当期間を経過していないときに該当するものとする。

MEMO

棚卸資産の評価方法のうち、一般によく用いられているのは先入先出法、移動平均法など。中小企業では簡便な最終仕入原価法を用いることも多い。

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