2015年9月15日
アベノミクスによる金融緩和・財政出動の目的は、需要を喚起し、デフレから脱却すること。ここで重要な課題となるのが、消費を後押しする賃金拡大です。税制においても、昇給を行った企業を優遇する所得拡大促進税制が導入されています。同税制の適用を検討する企業での、税理士の役割について考えてみましょう。
所得拡大促進税制は、平成25年度税制改正で導入。労働分配を一定以上増加させた企業は、適用年度における法人税から、支給増加額の10% (中小企業の場合は20%)の税額控除ができる制度です。
適用要件となる雇用者給与等支給額の増加率は以下の通りです。
平成27年4月1日前に開始する事業年度については2%
平成27年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する事業年度については3%
平成28年4月1日から平成29年3月31日までの間に開始する事業年度では4%(中小企業3%)
平成29年4月1日から平成30年3月31日までに開始する事業年度については5%(中小企業3%)
企業にとっては、昇給による人材へのさらなる投資の一部が、税額控除で戻ってくるイメージであり、心強い制度となりえます。税理士として、制度内容を頭に入れ、経営者に適切に適用のためのアドバイスをできるようにしておきたいところです。
さて、税理士は顧問先に税情報を提供し、有利な税制の適用のために条件を整える業務を行います。とくに優遇措置を伴う税制は適用要件が複雑であり、税理士から情報を提供しない限り、会社が制度活用のために積極的に動くのは難しいのが実情です。
所得拡大促進税制ではもう一つハードルがあります。給与は固定とされ、以後長期間にわたる負担となる費用。会社の重要な経営方針であり、税メリットだけを理由に、税理士から「給料を上げてみては?」と提案するのは困難です。税務についてアドバイスするきっかけが非常に限られています。
同税制については、給与計算、人事制度に関わるコンサルタント、社会保険労務士なども、自らの専門分野と絡めて情報を提供しています。しかし、税理士の独占業務に配慮しなければならないことがネックとなっているようです。税理士としては、給与制度、人件費に関するコンサルティング業務の潜在的需要を、他の専門家とも連携しながら探る価値がありそうです。