タックスへイブン対策税制は、タックスへイブン(軽課税国)を利用して租税回避を図る行為を規制する制度です。
これまで企業がタックスへイブンで得た所得は、源泉地国の法律で無税か名目的課税措置のみ行われました。その分の利益を配当せずに社内に留保すれば、そのまま再投資し運用できることになります。
上記への対策が、タックスへイブン対策税制になります。その源泉国において、税負担が日本の法人税負担に比べて著しく低い外国子会社等の留保所得を、一定の要件の下、株式の直接・間接所有割合に応じて日本の株主の所得とみなし、それら株主の所得に合算した上で、日本で課税します。現在は、法人税が存在しない国・地域、および税額が20%以下の国または地域をタックスへイブン対策税制の対象としています。
なお、上記が原則ですが、特定外国子会社等が下記4つの適用除外基準から見て独立企業としての実体を備え、かつ、その地の操業に十分な合理性があると認められる場合、タックスへイブン対策税制対象として除外されます。
事業基準:主な事業が株式等または債券の保有、工業所有権等または著作権の提供、船舶または航空機の貸付けなどの事業ではないこと。
対象子会社の本店所在地国に、主な事業を行うために必要な事務所、店舗、工場などの固定施設を有していること。
特定外国子会社等がその本店所在地国で事業の管理、支配、運営を自ら行っていること。
非関連者基準:(卸売業、銀行業、信託業、証券業、保険業、水運業または航空運送業の7業種の場合)取引の50%超を非関連者と行っていること。
(上記7業種以外の業種の場合)所在国基準:主に本店所在地国で事業を行っていること。
以下では、判決の流れをもとに解説します。
① 株式会社デンソーは、2010年6月28日、シンガポール子会社がタックスヘイブン対策税制の適用除外要件を満たしていないとして、所得金額約114億円、追徴税額約12億円(地方税等を含む)の更正処分を受ける。
株式会社デンソーは、2010年6月28日、名古屋国税局より、シンガポール子会社がタックスヘイブン対策税制の適用除外要件を満たしていないとして、2008年3月期および2009年3月期の2年間について、所得金額約114億円、追徴税額約12億円(地方税等を含む)の更正処分を受けました。
② 最高裁判決までの流れ
シンガポール子会社の事業に実態があると判断され、タックスヘイブン税制の適用除外条件を満たすとして課税処分を取り消されました。
名古屋高等裁判所は、シンガポール子会社の事業実態を認めず、処分は適法と結論適用除外要件については、名古屋国税局の控訴が認容され、株式会社デンソーの主張は認められませんでした。
なお、名古屋国税局の控訴が認容されたことに伴い、株式会社デンソーの控訴は棄却されました。
③ 2017年10月24日最高裁判決
上記判決を不服として株式会社デンソーは、最高裁判所への上告手続き(上告及び上告受理申立て)を行いました。
判決では、シンガポール子会社は、地域統括業務に係る事業を行うのに必要と認められる固定施設が有り、株主総会及び取締役会の開催、役員の職務執行及び会計帳簿の作成及び保管がいずれもシンガポール子会社で行われ、事業を主としてシンガポール行っていたことが認められました。その事業が、タックスヘイブン対策税制の対象とする株式の保有等一定の事業に該当しないことがそれぞれ認められるので、同税制の適用除外要件を満たすとされました。
2018年4月以降の事業年度から適用される、改正されたタックスヘイブン対策税制では、外国関係会社がペーパーカンパニーでないことや事業実体の判定基準を満たすことについて、税務当局から求められた書類を期限までに提出ができない場合には、適用除外要件を満たさないとされる推定規定が設けられています。
今後は以前より納税者側に不利な要素もあり、国税局では、タックスへイブン(軽課税国)の子会社を利用してグローバルな節税をしている企業に対し、適用除外基準基準を満たす事業実態があるか、単なる株保有にかかわる事業でないかという視点で調査されるのは変わらずとなります。
今回の最高裁判決を受けて、企業側としては適用除外要件を改めて確認できる参考の事例となり、国税局側としては、今後、自ら立証責任があるタックスへイブン対策税制の適用除外基準では更正をしにくくなりました。