2015年3月16日
公認会計士の業務の一つとしてIPO(新規株式公開)支援があります。アドバイザリーを行う際は、株式上場を目指す会社、経営者の目的が何であるのかを知った上で、 IPOがそれに適している手段なのかを検討する必要があります。しかし、この「IPOの目的」は決して一様なものではありません。
IPOの目的としては、もちろん株式市場に参加する投資家からの資金調達があります。
しかし、上場の支援実務に携わる公認会計士のお話をお聞きすると、IPOを望む経営者から「とくに今、資金が必要なわけではないのだけど……」
という声を聞くことが意外と多いようです。
帝国データバンクが、将来のIPOの意向があると回答した企業に対して行った調査によると、IPOの目的について「知名度や信用度の向上」と
回答した企業が74.7%とトップになりました。続いて「人材の確保」( 51.4%)、「資金調達力の向上」( 47.6%)が続く結果となっています。
そして、同調査でIPOの目的のうち8番目に多かったのが「創業者利益の獲得」(6%)です。上場によって、市場からの株価の評価が顕在化します。
創業者が保有している株式を一部売却するなどして、キャピタルゲインを得ることもまた、IPOの目的の一つとなっているのです。
創業者利得は、信用度アップや資金調達など、会社の事業展開に関する理由に比べると、
経営者があまり表立っては口にしにくいものでもあります。上記の調査においても、実際の回答以上の「本音」があるのかもしれません。
とはいえ、少ない資本で創業し、企業価値を高めてきたこと、またそれが市場で高く評価されることは賞賛されるべきことです。
リスクをとって投資を行い、事業を拡大することに成功したことへの対価としての創業者利得は、一概に否定すべきではないでしょう。
IPO支援を行う監査法人、会計士は、上場に信用度の向上、資金調達等以外の目的もあることを意識しながら、IPOを望む経営者の本音での要望を聞き取り、
その上で上場が最も良い方法であるか否かについて、IPOのメリット・デメリットを勘案する必要があります。
もちろん、コンサルティングではIPOが最善の方法ではないという結論に達することもあります。
いずれにしてもその助言が、経営者の本音ベースでの要望を汲み取った上で行われているか、
意思決定に本当に役に立つものなのかを検討することが重要であると言えるでしょう。