2017年12月20日
ベップス? ここ一年で耳にすることが多くなった国際税務のキーワードです。
“Base Erosion and Profit Shifting”の略称で“BEPS”と表記され、日本語では「税源浸食と利益移転」と訳されます。ただし、この直訳では、この言葉が持つ本来の意味は伝わりません。なぜなら、「BEPS」だけで、「BEPS行動計画」とか「BEPS対策」とか、あるいは「税源が浸食され、利益が移転される行為を防止するために○○○○○している」までをイメージさせているケースまで、使われる場面でかなりニュアンスが異なるようです。
このあいまいな概念を内包した「BEPS」を現時点で可能な限り、わかりやすく、丁寧に解説したのが本書です。
本年6月7日にパリで、76か国・地域が「BEPS防止措置実施条約」に署名もしくは署名の意思を明確にしたことで、「BEPS」が、全世界のある程度の共通認識をもって動き出したとすれば、新たな展開が用意されたということでしょう。
税制はドメスティックな制度で、二国間で二重課税が生じる場合には、租税条約が結ばれて二国間で調整するという歴史が繰り返されてきましたが、「BEPS」により、多くの国が参加する条約ひいては国際的な税務基準が設定され、二国間調整が不要になる新しい歴史へと舵が切られるということです。
見方によれば、会計や貿易以上に各国の思惑が入り乱れる世界に基準ができるとなれば、考えただけでもワクワクしてくるエポックメーキングなことです。間違いなく、長い時間がかかるでしょう。多くの障害が待ち受けるでしょう。それでも、この壮大な計画が前に進むのなら、大いに期待したいものです。
「BEPS」とは、「単に国際税務という特定の領域を超えた、税制自体の考え方の転換、現時点においては課税漏れの回避と価値創造の場と課税場所の一致を不可欠の要素として取り入れたもの」と、著者は最後に定義し、国際取引だけではなく、国内取引も含めた税制にも大きな影響を与えていくかもしれないと予想しています。こうしたことを考えるための第一歩として、本書を読まれることをお勧めします。