■ 実務未経験だと就職・転職には不利?
税理士資格を目指し勉強していると、どこかの段階で会計事務所、税理士法人などで働く機会がやってきます。
しかし実務未経験の場合は、たとえ税理士試験の法人税法に合格していても、実際の法人税申告書は作ったことがなく不安だ…ということもありますよね。就職・転職する際には、すでに実務経験がある方とも選考を競わなくてはならなりません。未経験というだけで不利な面はあるでしょう。
そこで、資格を取得するための学校では教えてくれないけれど、実務には必要なことだと思う5つの知識について、わたしなりにお伝えしたいと思います。
■ 知っておくべき5つの知識
(1)法人税申告書の種類
一般的な会計事務所では、多くの法人を顧問先として抱え、月次作業と年一の決算作業を行います。決算で作成しなければならない法人税申告書には、申告書以外にも付随する様々な書類があり、それらをひとまとめにし「申告書一式」として提出しなければなりません。
法人税の申告書一式とは、次のような書類のことをいいます。
- 法人税申告書及び地方法人税申告書(各種別表)
- 決算報告書(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、注記)
- 勘定科目内訳明細書
- 法人事業概況説明書
- 税務代理権限証書
このほか、第六号様式と呼ばれる「都道府県民税・事業税申告書」や、消費税の課税事業者であれば「消費税申告書」を提出する必要があります。
法人税申告書で特に重要なのは別表一、四、五(一)(二)です。作成の手順は別表の順番とは関係なく、次のように作成すると覚えておきましょう。
① 別表五(二)…租税公課の納付状況等
② 別表四 …所得金額の計算
別表五(一)…利益積立金額・資本金等の額の計算
③ 別表一 …税額の計算
どの税目の申告書でも、一枚目(法人税の場合は別表一)は最終的な税額が記載されるように作られています。一枚目は最後に作成するということを覚えておきましょう。
また、法人税申告書の作成については下記の本がたいへん読みやすく、申告書作成が未経験の方はぜひ一読しておくことをオススメします。
(2)消費税の区分について
月次作業では仕訳入力・チェックをしなくてはなりませんが、簿記の知識とともに知っておきたいのが消費税区分です。
消費税は何かと確認することが多い税目です。
① 課税事業者か免税事業者か
② インボイス登録事業者か
③ 原則課税か簡易課税か
このようなことを月次作業の前に、まず確認しておきましょう。
消費税区分については、以前書かせていただいた下記の記事をご参考ください。
(3)繁忙期・閑散期について
会計事務所の繁忙期・閑散期については、実際に働いたことがないと知らないこともあるかもしれません。以前お話したこちらの記事を参考にしていただければ、イメージしやすいかと思います。
特に事務所によっては、繁忙期に週6日勤務、退社時間の繰り下げなどがあり、その時期に対応できるかどうかも採用には重要になってきます。
もし育児や介護などの理由があったとしても、こういった繁忙期に、自分がどのように働けるのかを面談で提案できると、採用側も前向きに捉えてくれるでしょう。
また転職の時期が選べるのであれば、できれば閑散期に入社できるよう活動することをオススメします。実務未経験者の場合、どうしても仕事について教えていただく機会が多くなりますので、繁忙期の入社はお互いに負担が大きくなる可能性が高いです。6月~年末までが一般的に閑散期ですので、この時期に働き始めることができれば、スムーズに仕事を覚えることができるのではないでしょうか。
(4)電話対応、来客対応、事務スタッフを大切にする
会計・税務知識の話からそれますが、これは意外とできていない方が多く重要なことです。
まず、会計事務所には所長と始めとした税理士や税務担当者以外にも、たくさんの事務スタッフの方がいます。そういった中で実務未経験者として入社した場合、勉強で得た知識がたくさんあったとしても、雑務なども率先して引き受ける気持ちを持つことが大切だと思います。
事務スタッフの方がいるからとおろそかにせず、電話や来客には積極的に対応する姿勢を自分から示しましょう。そういった姿勢を心掛けることで、事務所の人間関係にも自然と溶け込むことができます。また、知らないことがあっても周りの人からサポートしてもらえます。
特に、男性で入社当初からこのような謙虚な姿勢を示せる方は、必ず好印象を持たれます。男女問わず面接では、そのような主な業務以外の仕事についてもどのように考えているかアピールできると、内定可能性がぐっと高まると思います。
(5)会計ソフトの使い方
会計ソフト入力が未経験という方のために、わたしが使っている会計ソフトの入力画面をお見せします(図1)。会計ソフトはマネーフォワードクラウド会計です。
他社の会計ソフトでも、基本的にはこのような画面です。実際に簿記や消費税の知識をどう使うのか、参考にしてください。
■ 実務未経験でも採用されやすい事務所の規模
実務未経験でも採用されやすい事務所は、20名以上の規模の中堅事務所ではないでしょうか。というのも、数名の少人数の事務所であれば、教育係が不足している可能性があったり、年齢層に偏りがあったりすることで、未経験者を十分に教育・サポートできる環境が整っていない可能性があるからです(もちろん、そうでない事務所もあると思います)。
■ 実務未経験で転職した場合の年収相場
最後に、気になる年収についてお伝えします。税理士資格を取得したり、長年勤務するようになると、事務所内で重宝され年収は上がっていきます。
長く働くことができ、成長するたのしみがあるのが、会計事務所勤務のメリットではないでしょうか。
■ まとめ
税理士試験の科目合格があるけれど、実務未経験で転職するか迷っている・・という方はわたしの周りでも少なくありません。でも、「実務を経験してみたい」という気持ちは、実際に会計事務所勤務をするまでなくならないと思います。
せっかく勉強して得た知識ですから、これを活かして働ける、素敵な職場をぜひ見つけてください。この記事がこれから会計事務所で働く方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
- 執筆者プロフィール
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定岡 佳代(さだおか かよ)
税理士
兵庫県出身。1980年生まれ。神戸大学工学部建設学科、神戸大学大学院自然科学研究科(土木工学)修了。
関西で技術職に就くも、結婚・出産・上京を機に専業主婦に。次男の妊娠中に簿記の勉強を始め、日商簿記3級・2級に独学で合格。そこから税理士試験に挑戦し、パート勤務、大学院通学と並行しながら3科目合格。立教大学大学院経済学研究科を2020年3月に修了。2021年4月、税理士登録。
硬式野球男子2人の母。「税理士を目指すママ」コミュニティで知り合った友人のママ税理士4人で、セミナーや対談など活動をしている。都内の税理士事務所、税理士法人で約10年の修行を経て、2023年8月に独立開業。
「お客様はピッチャー、私はキャッチャー。どんな球でも受け止める。」をモットーに、お客様との対話を大切にしている。